45 For Trash

しごうするのか、されるのか。

転覆病と金魚たちの安心

我が家には二匹の金魚がいます。昨年の夏に飼い始めました。

人懐っこくて、飼い始めて1週間ぐらいで、私の指から餌を食べようとするぐらい。元気も良く、ポンプの水流で遊んだり、岩の穴をくぐったり、眺めているだけで飽きません。

しかし、昨年の12月に入った頃、一匹の金魚の様子がおかしくなりました。

どうも姿勢が安定せず、泳ぎ方もおかしい。特に浮かび上がる時、今まではすーっと自然に浮いていたものが、身体をバタバタさせています。身体が傾いていることも多くなり、その日のうちに活動が少なくなって、最後には水槽の底でじっとしているようになりました。

(このエントリーの最初の3/4は金魚の転覆病の原因と治療法に関する私の体験談、1/4は金魚を眺めていて思うことを書いています。関心のあるところをどうぞ。)

転覆病の可能性

ググってみると、どうも「転覆病」という病気のようだとわかりました。

転覆病の症状は、典型的にはお腹が腫れたり、姿勢が傾いたりひっくり返ったりして、水面に浮かんだままになってしまうというもので、我が家の金魚にはぴったりと当てはまりませんが、沈んでしまうタイプの転覆病もあるそうなので、そうなのかなと。

色々読んでいると「転覆病」と一括りに呼ばれている金魚の病気の中には様々なバリエーションがあり、本当は原因や症状、治療法など、様々なものを同じように扱っているきらいもあるようです。

ただ、姿勢が傾いてしまったり、浮き沈みを自在に出来なくなったり、正常時よりも浮かぶ際にパワーを使わなければならないように見える様子から、少なくとも「浮き袋」に問題が生じていると推測。大まかな意味では転覆病と共通するだろうという判断で、原因や治療法などを調べていきました。

転覆病の原因を探るが…

主に参考にしたのは次のサイト。観賞魚用品メーカーのGEXのサイトのリンクから辿りつきました。

転覆病の原因はこんなに多くあります | 金魚部

非常に参考になりました。これによると、転覆病の原因は色々あるようです。


  1. 消化不良や餌の与えすぎによる転覆
  2. エア食い等による転覆
  3. 騒音や振動によるストレスからの転覆
  4. ウイルス感染による転覆
  5. 水質悪化による転覆
  6. 水換えによる転覆
  7. 水圧による転覆
  8. 飢餓転覆

症状が現れた前後の状況から、この中で我が家の金魚の病気に関係ありそうなのは、「消化不良や餌の与えすぎによる転覆」「エア食い等による転覆」なのかなあとまず思いました。沈下性の転覆病なのでエア食いはないかも知れませんが、ずっと浮上性のエサをあげていたのでエアを食った影響の可能性も否定できないかなと思いました。

ただ、金魚部さん以外のサイトも色々見ましたが、どれを見ても決定的な原因の特定、治療法の選択の判断は難しいようです。皆さん試行錯誤されている様子。そこでこれは慎重にいった方がいいなと思いました。生き物の飼育に限らず、何かを直そう(治そう)として余計なことをしてしまって取り返しのつかないことになる、というのは良くあること。大事な金魚に下手なことをして症状を悪化させるのだけは避けたいと考えました。

水産学とかから何かわからないか

もう少し科学的な情報はないだろうかと水産学とかの学術論文などにアクセスできないか試みましたが、ネット上にはほぼ皆無…。やっと見つけたのがこれですが、治療に直接役立つようなものではありません。

キンギョの転覆病罹病魚の肉眼的,放射線学的および解剖学的所見(PDFへの直リンク)

これによると転覆病は


  1. リュウキンなどの丸い体型の金魚に発生する。
  2. 急激な水温低下時や冬期に発生しやすい。
  3. 症状の特徴は水中を不安定な姿勢で遊泳し徐々に衰弱して死んでしまう。
  4. 肉眼的,放射線学的および解剖学的に検査した結果…
    4.1. 健康魚に比べて鰾(浮き袋)が顕著に下垂している。
    4.2. 左右いずれかの鰾(浮き袋)が変異している場合もある。
    4.3. ただしこれだけでは説明不能な不安定遊泳もある。

とのことです。とはいえ、うちの金魚をX線で見るわけにもいきません…。

ただ、鰾(浮き袋)に不具合があるとしてもその症状には種類もあり、その原因を消化器の影響だとまで断定はし切れない、という感触を得ました。先天的な要因が何かのきっかけで発現したという可能性もあり得ますね。

結局原因は特定できない

結局のところ原因は特定できません。要は、外から観察して前後の状況から推測するしかない、という当たり前の結果ですね。しかし一通り調べて少し納得。

それで、私としては、採用しても問題なさそうな治療法を選ぶために、下記のように判断しました。


  1. 鰾(浮き袋)に問題が生じているのは明らかだろう。
  2. その原因が消化不良の可能性はあるが他の異常(先天性その他)の可能性も否定はできない。
  3. 沈下性なのでエア食いの可能性は低いが可能性は皆無ではないかも。
  4. 水温はヒーターによって安定しており水温低下は原因ではない。

非常に限定したものになってしまいましたが、これらの可能性にそって治療をすることにしました。

やってみた最低限の転覆病治療

病気の金魚は水底でじっとしていることが多いのですが、時々は泳いでいます。泳ぎはぎこちないのですが、幸い極端に消耗しているようにも見えません。

そこで、まずは最低限の治療をしようということで下記のことを行いました。


  1. 塩水浴(塩浴)。
  2. 砂利や水草などは全て除く。
  3. 水深を浅くする。
  4. 1週間の断食後、3日おきのエサやり。
  5. 沈下性のエサへの変更。

塩水浴(塩浴)

転覆病に限らず、金魚の治療として非常にポピュラーな塩水浴(塩浴)。金魚をあえて塩水の中に入れる治療法です。

淡水魚である金魚の細胞内部の浸透圧は周囲の真水よりも高いので、外部からの水の侵入による体液の消失を防ぐため、尿の排出等、常に浸透圧調整を行っています。この浸透圧調整のために常に使われている金魚の体力を使わせないようにして回復を図るのが塩水浴です。金魚の体内の浸透圧に周囲の水の浸透圧を近づけることで、浸透圧調整をあまり行わなくて済むようにする、ということですね。

また、塩の殺菌作用も多少は期待できるようです。

よって、塩水浴の目的は、金魚の体力回復と殺菌、ということですね。転覆病そのものに向けた治療ではありませんが、例えば金魚すくいでとってきた金魚を飼い始める際、弱った金魚を回復させるために塩水浴を行うことが推奨されるように、少なくともネガティブな影響は生じなさそうな安心な治療法です。

金魚の塩水浴に最適な塩分濃度は0.5〜0.6%程度と言われていますので、目安としては水1リットルに対して塩5グラム。きちんと計って塩水を作ります。我が家の水槽は小さく、また後で述べるのように水深も浅くするので、2リットルの水に10グラムの塩を溶かして塩水を作りました。もちろん、水換えの際は既存の水と水温を合わせます。

尚、使う塩は余計なものの入っていない精製塩を使いました。ペットショップなどには塩水浴用の塩などが売られていますがその効果のほどはよくわかりません。個人的な考えとしては、浸透圧を調整するために使うものなので精製塩で十分だと考えましたし、むしろよくわからない成分が入っているのはマイナスの可能性もありうると考えました。

金魚を塩水に移しても、特に金魚に変化はありません。むしろ変化があったら怖いので、様子が変わらないことに安心しつつ様子をみます。

砂利や水草等すべてのものを取り除く

水槽には砂利、水草、苔の生えた石、トンネルになっている岩などを置いてありましたが、これらは全て撤去しました。

理由の1つは、可能性は低いと思うものの、これらのものに何か良くないものが繁殖していたりする可能性を考えたからです。

もう1つの理由は、金魚があまり活発に動かないようにするため。つまり可哀想ですが、金魚にとってつまんない環境にすることです。金魚は好奇心が強いのか、水草や砂利、苔などを頻繁につついたり、わざわざその狭い隙間を通り抜けるのを繰り返したりします。普段はその方が金魚にとって良いだろうと置いていたのですが、病気のくせにそういう行動を取ろうとしてしますので、遊べないようにしてしまおうという狙いです。

水槽に入れるのはフィルター兼エア―ポンプとヒーターのみ。他には何も入れず、非常に寂しい状態になりました。可哀想な気はするのですけどね。

水深を浅くする。

普段の水深は約20センチ程度でしょうか。しかし、治療中は水深約8センチぐらいまで水を減らしました。これも金魚の体力節約のためです。

沈下性の転覆病にかかっているとはいえ、我が家の金魚はまだ水面に浮かんでいく力はあり、時々思い出したように水面に向かいます。しかしその際、健康な時に比べると激しく体を揺さぶりながら全力で上っていくので、これは確実に体力を消耗しそうです。水深を浅くすれば、動ける範囲が限られるので体力を温存できるだろうという考えです。

もっとも、水量が少なくなるので、水質の悪化には注意しなければなりません。最低1週間に1度は水換えを行うことと、フィルターの様子を頻繁に確認して交換することにしました。

断食とエサやり間隔を空けること

塩水浴を始めると同時に、エサ断ちをしました。これは転覆病を直接意識した治療です。情報によると、転覆病はエサの食べ過ぎ、消化不良等による消化器官の不具合が鰾(浮き袋)に何がしかの影響を与えて発症する場合もあるように言われています。

そこで消化器の中を空に近づけることで消化器官の回復を図り、鰾(浮き袋)の不具合も良くしようという狙いです。

金魚はエサを与えると食いつきます。お腹がすいていないだろう、と思う時でも食べてしまいます。恐らく満腹感のようなものがなく、とにかく食いつくという行動を取るのだろうと思うのですが、一方で1週間程度エサをやらなくても憔悴することはないようです。

発症前、特にエサを多く与え過ぎた覚えもないのですが、1週間程度なら断食をしても特に悪影響はないだろう、ということで行いました。もっと長い断食期間を推奨している情報もあり、その方が良い場合もあるのかも知れませんが、私は飢餓による影響が心配なので、1週間で試してみることにしました。

1週間後エサをやりましたが、いつもやる量よりも少な目にしました。その後は少なめのエサということを維持しています。断食の後は3日おきにエサをやりました。

沈下性のエサへの変更

金魚が我が家に来て以来、ずっと浮上性のエサをやっていました。エサは2分程度で食べきる量を与えるようにしているのですが、食べきれない量を入れてしまうことがあり、あまったエサは水を汚さないように回収していました。その時に、浮上性だと食べ残しがわかりやすいのですよね。また、砂利を敷いている関係で砂利の間に入った食べ残しをうまく回収できないことも考えました。

しかし、エア食いによる影響もわずかながらあると想定し、エサを沈下性に変えました。全く関係ないかも知れませんが、沈下性に変えたからといって悪影響はないはずです。また、水槽から砂利や水草を撤去したので、食べ残しがあってもスポイトでの回収は簡単にできます。

そして一番大きいのは、沈んでしまっている金魚がエサを食べるときに体力を消耗しない、ということです。エサを求めて水面に浮上する度に全身を使って体力を消耗してしまうのが防げると考えました。

ココアとか胃腸薬とか

尚、金魚の消化器の調子を整えるという意味で、例えばココアで作ったエサを与えたり、ココア浴なることを行うことが推奨されていたり、場合によっては人間用の胃腸薬をエサに混ぜるなども紹介されています。私もこれらの方法を試してみようかとも考えましたが、いまひとつ明確な根拠を感じなかったこと、かえってマイナスになるリスクなども考えて試していません。

もしも治療効果があがらなかった場合に、最後の手段として考えてみるかも知れないけれど、「余計なことをして状態を悪化させる」というパターンにはまる予感がしたので当面行わないことにしました。

治療経過

1週間後

塩水浴と断食を始めて1週間経過後、相変わらず水槽の底にいることが多いのですが、姿勢が傾いたりすることが減ってきたように見えました。また、水面に上昇する際の身体の動きの激しさもわずかながら減ってきたように見えます。

断食を始めて2日目頃には大きな糞をしましたが、その後はほんの小さな糞が出ているか出ていないか、ぐらいでした。エサをやっていないので当然だとは思うのですが、お腹の中が空っぽになっているのかな、というのがわかります。

1週間後に普段の半分ぐらいの量のエサをやりました。

2週間経過後

エサをやったあと、金魚は少し活発になりました。水底にいる時間がほんの少しだけ減りました。「おお、元気になってきたのかな?」と思っていたら、エサやりの翌日、また姿勢の傾きが見られるようになっています。

エサでエネルギーを得たことで活発になったものの、エサの影響で治りかけていた姿勢の不安定さが復活してしまったという感じなのかな、と思いました。

とはいえ、エサをまったくやらないわけにもいかないので、エサの量をさらに少し減らしつつ、3日に1度のエサやりは継続しました。

4週間経過後

状態が良くなったと思いきやエサをやると悪くなる、ということを繰り返しながらも、1ヶ月経過した頃には、エサやり後の不調もあまり見られなくなりました。完全に元気だった頃と比べると、まだ水底にいることは多いのですが、それでも水中をあまり苦もなく泳ぐようになりました。

一番体調の回復を感じるのは、水の真ん中を泳いでいる様子です。発症直後は水の中でふわっと浮いていることができず、目的の方向に行こうと身体を常に強く動かしている様子だったのですが、それがなくなり、ゆったりと水面でも水底でもない真ん中あたりに浮いていられる時間が長くなりました。

病気だったことを知らなければ、異常があるようには見えないほどに回復したようです。

塩水浴とエサやり間隔を保つことは続けていますが、かなり健康体になったのではないかと思います。

仲間想いの金魚

病気になった金魚は2匹のうち1匹。1匹を隔離して治療しようかとも思いましたが、もう1匹にも付き合ってもらいました。その1番の理由は、2匹がとても仲良しだからです。

飼い始めた時からずっとお互いを意識し、様子を見ながら暮らしています。片方が活発に水草や岩の間を泳いだりポンプの水流に逆らって泳ぎ始めると、もうい1匹がその後を追いかけて同じような動きをする。片方が大人しくしていると、もう片方が傍に寄って行って一緒に静かにする。時には、ほんの少し相手を口で突っついて「一緒にいこう」と呼びかけているようにも見えます。泳ぎながら身体を寄せ合っているのもしばしば。

今回とった治療法が健康体の金魚にも悪影響がなさそうだという判断の下、一緒の水槽でずっと過ごしてもらいました。離れ離れにすることも、金魚にストレスを与えて体調にマイナスの作用を及ぼすだろうと思ったからです。

「仲間想い」とか「仲良し」という言葉を使いましたが、もちろんその本当の中身は人間のそれとは異なっているでしょう。脳のほとんどを脳幹が占め、小脳もごく小さく、大脳は大脳辺縁系しかない魚類と大脳新皮質が高度に発達した人間の精神とを単純に比較することはできません。

ただ、群れを作る魚が群れから離れるとストレスを感じている(余分なエネルギーを消費してしまう)という研究があったり、魚の群れが決まったリーダーを持たないのに群れの中で起こる出来事(特に危険)への個別の反応で情報伝達を広く行い、あの統率のとれた全体の群れの形を作っているのだという話もあります。

魚に生存のために群れを作り行動する仕組みが組み込まれていること、それを基礎にして金魚が相手を同類と認識し近しさを感じることは、人間が他の人間に感じる親しさ、思いやる気持ち、協力し合う事と繋がっているだろうと思います。

人間が高度な思考を持ち、どれだけの知性を働かせたとしても、それは我々が生物でありその肉体に組み込まれた仕組みから完全に自由になることはないだろうと私は思っていて、生き物を静かに眺めている時にそのことを何度も思い浮かべるのです。

転覆病の金魚は少し泳いでもすぐに水底でじっとし始めます。健康な方は水槽の中を縦横無尽に泳いでいるのですが、時々もう1匹の方に近づいてはそっと口でつついたりしています。

しかしそのうち、健康な方の金魚は病気の金魚にぴったりとくっついて一緒に水底でおとなしくし始めるのです。

我々が考えるような「心配」「仲間想い」などとは違うでしょうが、少なくとも傍にくっついていた方が心地よいのだろう、それは人間とも共通する「安心」なのかも知れませんね。


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