45 For Trash

しごうするのか、されるのか。

原発避難いじめ被害者に寄り添うつもりのない人々

クリスマスイブにあがっていた東京新聞の記事に付いていた多数のブクマに違和感を持ちました。今日は記事を書く予定ではありませんでしたが気になったので殴り書きます。

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www.tokyo-np.co.jp

この記事を書いている時点(2016.12.25 18:30時点)でのブックマーク数は184。ブコメは86。そのうち、明確に東京新聞叩きにブコメを使っているのは50。ニュアンスを含んでいるものもカウントするともっとです。スターの数で上位10位までを占めているブコメも全て東京新聞批判。これらのブコメについているスターの数は426です。

東京新聞批判をしているブコメの主旨は概ね、「東京新聞が被曝の危険性を煽り誤った知識をばら撒いたために、その知識に基づいて加害者がいじめをした。」といったものです(2016.12.26追記。この一文がないとわかりにくいと思ったので追記しました。)。

一方、私は次のようなブコメをしましたが、全くの少数派です。

東京新聞:「間違った知識 親から子へ」 原発避難いじめ問題で意見交換:神奈川(TOKYO Web)

いじめにあっている人達に寄り添う気持ちが少しでもあれば100字制限のブコメを東京新聞叩きに費やすなんてことになるだろうか。被曝の危険を回避するために避難しているんだよ。そのことをも馬鹿にする態度はなんだ?

2016/12/24 22:25
b.hatena.ne.jp

はてブの数やブコメの傾向が、そのままはてなユーザー内での世論だとは思いませんが、それにしてもこの話題でこんなにも東京新聞を叩く人たちが集まり、他の意見がごくわずか、という状況が気になりました。

原発避難生徒・児童へのいじめ

ここに来て相次いで原発事故避難者の生徒・児童へのいじめが発覚しています。

横浜市での原発避難生徒へのいじめ

横浜市で長期間にわたっていじめを受けていた原発避難生徒に関する報道です。

www.asahi.com

いじめ被害を受けた生徒自身が書いた手紙も公開されています。公開するのは勇気がいったことだろうと思います。

www.huffingtonpost.jp

新潟市での原発避難児童へのいじめ

続いて発覚した新潟市での原発避難児童へのいじめは、先生がいじめに加担していたのではないかという事情もあり批判が集まりました。

www.asahi.com

その他の自治体でも原発避難者へのいじめが相次ぎ発覚

これらの他にも、原発事故で避難した児童・生徒へのいじめが次々と発覚しています。事柄の性質上、これは氷山の一角であろうこと、あるいは過去にいじめがあったとしても、公には取り上げられなかった事例は暗数として多く眠っているのではないかと推測されます。

mainichi.jp

www.asahi.com

原発事故避難者へのいじめはなぜ起こるのか。

原発事故避難者へのいじめはなぜこんなにも頻発しているのでしょうか。

原発事故による放射能汚染・被曝に対する誤った知識・偏見が原因だとする人々

原発避難者へのいじめは、放射能汚染や被曝に関する誤った知識・偏見が原因だとする考え方があります。代表的なものとしてジャーナリスト江川紹子氏のコラムを挙げます。

biz-journal.jp

放射能があたかも細菌のように人から人へうつるように誤解している人は少なくなかった。こうした大人たちにとって、「福島」は放射能という“穢れ”を運ぶものに感じられたのだろう。無自覚な“福島いじめ”がじわじわ広がる社会の空気が、子どもに影響しないわけがない。

【原発避難でいじめ】はなぜ起きたのか…蔓延した福島差別と問われる大人の責任 | ビジネスジャーナル

この日本で、本当に放射能が伝染するものだと誤解している人が「少なくなかった」のか疑問がわきますが、私の見ている世界と江川氏の見ている世界は違うようです。しかし、そのことはさておき、この「伝染する」という誤った知識や偏見が今回のような原発避難者のいじめにつながっているとするのは正しいことでしょうか。

もし仮に、福島は原発事故でひどい健康被害を受けた危険な場所であり、その場所から来た人たちと接触すると自分たちにも健康被害が起こる、と本当に信じている人がいるとすれば、その人は避難者との接触を忌避するはずでしょう。接触すれば伝染すると考えているのですから。しかし、いじめの加害者たちは被害者と接触しています。

横浜の例で言えば、被害生徒とともにゲームセンターなどに行き150万円ものお金を出させています。あるいは殴るなどもしています。本当に触れれば伝染する、と信じているならそんなことはしないでしょう。

加害生徒・児童たちは、放射能が伝染するなんてことはあり得ないことを十分わかった上でいじめを行っているのです。

いじめに至る要因を完全に特定することは容易ではないかも知れませんが、少なくとも加害者たちが本当に「放射能は伝染する菌のようなものだ」と考えていたわけではないことは明らかで、それが原因だとは言えません。被曝に対する認識がなんであれ、このいじめの原因に対する江川氏の態度は正しいものだとは思えません。一方で頭の良い江川氏であればそれもわかった上でこう書いているのでしょうか。そうであればそれは誠実な態度とは言えません。

同様に、冒頭の東京新聞の記事に多数付いていたブコメが考える「東京新聞が被曝の危険性についてデマを拡散→デマを信じた親その他が避難者を忌避する発言→子供がそれを真似てイジメ」という図式もなりたちません。先に述べた通りデマを信じて避難者を「菌」と扱ったわけではないのです。低線量被曝の影響についてどのような認識を有しているにせよ、このいじめの原因が被曝の危険性を「煽った」ことにあると言うことはできないはずです。

原発事故避難者への偏見・誤解・冷淡さこそがいじめの原因ではないか。

ではなぜ原発事故避難者へのいじめが起きるのでしょう。

いじめの原因をひとつに特定するのは容易なことではないでしょう。ただ、これらのいじめに共通するのは避難者を「菌」と呼び、「補償金があるだろう」と言い、「福島へ帰れ」などという避難者への冷淡な態度です。やむなく故郷を離れた人々への同情や共感とは全く逆の態度です。

知性も判断力も発達途上の子供は、このような態度をどこから身に付けるのでしょうか。それは親からかも知れないし、教師からかも知れない、他の大人かも知れません。あるいは今や子供も簡単にアクセスできるネットからかも知れません。

それにしてもいじめ加害者の子供たちの傍にだけ、このようなひどい態度を見せる特異な大人が存在するのでしょうか。いじめが発覚している場所でだけ。日本中に散らばっていますがそこでだけでのことでしょうか。

原発避難者へのいじめに関する報道を見ると、大人でも福島から避難してきたこと自体を周囲に隠そうとしている人たちが少なからずいることがわかります。それは、原発避難者であることがわかれば、何がしかの不利益を受けたり、暮らしにくい、生きづらいと感じることがあることを経験的に知っているからでしょう。それはどこか特別な場所や特異な大人の傍でだけ起こっているのではなく、私たちの社会のあちこちにそのような現実があることを示しているということなのだろうと思います。

帰還困難区域・居住制限区域・避難指示解除準備区域から避難している人々に対しても「補償金太り」をしているのではないかという心無い視線を向ける人もいます。あるいはこれら以外の地域から自主避難している人たちには、「そもそもなぜ避難なんかしているのか?」と目が向けられることもあるでしょう。実際、冒頭記事のブコメの中にも、避難者自身が理性的でない避難をしているように匂わせたり、直接「放射脳」と揶揄しているものもあります。

原発事故避難者は自主避難者であっても、自らの自由意思で故郷を離れたわけではありません。原発事故さえなければ多くの人は今でも故郷で普通の生活を送っていたことでしょう。突然起きた福島第一原発の過酷事故によって故郷が汚染されたことが全ての原因です。

どの程度の汚染がそして被曝が健康被害をもたらすのか、特に子供の健康への悪影響の可能性については、原発事故後様々なデータや論争がありました。しかし、そのことについてここでは立ち入りません。

ただ、避難者が被曝を恐れて故郷を離れていること、これは事実です。そして、自主避難者は政府が避難不要としている土地から避難しています。つまり政府とは見解の相違があるわけです。政府に安全と言われてもそれを全面的に信用ができない、特に子供の将来の健康を考えると、政府と対立してでもはっきりとするまでは安全側に振った行動をとりたい、そう考えているのではないでしょうか。

彼らの多くは、原発事故前に政治的な行動をしたことのない人たちでしょう。そんな人たちが政府の見解と対立してまで、そして住み慣れた愛する故郷を離れてまで避難している理由は、他でもない「被曝への恐れ」です。特に幼い子供のいる人たちがこれらの恐れを抱くのは無理のないことです。

しかし、低線量被曝の人体への悪影響を否定する人たちの中には、こういった避難者の「恐れ」を根拠のないものとして批判したり、揶揄したり、馬鹿にする人たちがいます。避難者に対してまで「放射脳」という言葉を使う人たちまでいます。

仮に、低線量被曝の影響と自主避難者の「恐れ」が不均衡だったとしても、そのことを揶揄したり馬鹿にしたりできるということが私にはまったく理解できません。被害者が「恐れ」を抱くのは当然ではないでしょうか。原発事故当時、関東地方にいた人たちも報道を固唾を飲んで見守り、映像に衝撃を受け恐れたはずですが、それよりもずっと近い場所で暮らしていた人々の恐怖はいくばくのものだったのでしょうか。最も被害を受けたこの人々に対して「未だに恐れているのか?」などと非難したり揶揄したりするなど、同胞として、いや同じ人間としてできることなのでしょうか。

低線量被曝による健康被害の可能性について政府は一貫して否定しています。また、現在では政府同様にこれを否定する考え方の方が強くなっているように思えます。しかしながら、例えば福島県における子供の甲状腺がんの発生状況について、原発事故による被曝の影響によるものなのかどうかについては、未だ決着がついているわけではありません。福島県の県民健康調査検討委員会においても、以前は原発事故による被曝の影響は考えられないという話でまとめられていたものが、複数の委員から、被曝の影響の可能性も考慮入れなくてはならないのではないか、という意見が出始めています。まだ確定的な結論を出すことはできないのです。

このような状況では、いくら政府が安全だと言っても安心して故郷に帰還などできないと考える避難者がいるのは当然です(もちろん、政府を信用して帰還する人がいるのも当然です)。この人たちはやはり「帰りたくても帰れない」人たちなのです。

そういった人たちが胸をはって「福島から避難してきた」と言えない日本社会とはなんでしょうか。援助の必要な人たちに寄り添うのではなく、避難していること自体を揶揄したり非難したりする人たちが一定数いるのはなぜでしょうか。

多くのマスコミが、例えば福島の小児甲状腺がんについての報道を縮小していく中で、なぜそれを比較的真剣に詳しく取り上げるメディアが叩かれるのでしょう。原発事故避難者は、低線量被曝の影響についてできる限りたくさんの情報を知りたいはずです。また彼らに寄り添おうと思う人であれば、同じくそのような情報に触れたいと思うはずです。仮に実際には安全だとしても、異なる見解や分析結果があるなら、それにもアクセスしたいはずです。全ての情報が正しい保証はないとしても、あらゆる情報にアクセスした上で自らの頭で考え判断したいはずです。

避難者の故郷はそもそもは綺麗な土地でした。健康への影響の程度はいまだ確定できないにしても、汚染されたことは確かです。その汚染の程度がどの程度で、健康への影響がどれくらいかを常に知りたい、そして健康への影響についていくつかの見解があるなら、そのすべてを知りたい、それは当然のことです。

それを認めないなら、原発事故避難者の心配を揶揄し、馬鹿にするのと同じことです。冒頭の記事のブコメで東京新聞を叩いて喜んでいる人たちは、いじめ被害者に寄り添う気持ちがあるのでしょうか。それとも、被曝を恐れる避難者の想いをも馬鹿にしているのでしょうか。

最後に

最後に、今回の原発避難いじめに関連して原発被害者訴訟原告団全国連絡会が発表した声明へのリンクをはります(【2017.1.19追記】報道記事にリンクしていましたがリンク切れになったので、連絡会が公開しているPDFファイルに直接リンクします。)

「原発被害者の子どもに対するいじめについての声明」(原発被害者訴訟原告団全国連絡会 2016.12.22付)
http://www.jnep.jp/genzenren/161222.pdf(PDFファイルへのリンク)

被害補償の打ち切りによって不本意な帰還を余儀なくされ、他方では避難区域外からの避難者は、現に避難生活が続いているのに、何の保障も得られず、困窮に陥るという事態が生じたのです。

http://www.jnep.jp/genzenren/161222.pdf(PDFファイルへのリンク)

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さらに昨年から、国と東京電力は「帰還強要」政策を強めました。来年3月には帰還困難区域を除いた避難区域を解除し、併せて賠償と住宅支援打ち切りという被害者の切り捨てを強行しようとしており、福島県もそれを容認しています。

http://www.jnep.jp/genzenren/161222.pdf(PDFファイルへのリンク)

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国と東京電力は、あたかも福島県全土が放射能汚染から解き放たれた安全な地域になった、帰らないほうが悪いと思わせようとする政策をとり続けているのです。

http://www.jnep.jp/genzenren/161222.pdf(PDFファイルへのリンク)

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多くの被害者は皆、故郷を深く愛しているけれども、避難をする必要があるので避難を続けているのです。誰が、深く愛している故郷を、理由もなく離れることができるでしょうか。被ばくを避けるためにやむを得ず行っている避難生活について、心ない批判や理不尽な仕打ちを受けることは、まことに残念な事態です。

http://www.jnep.jp/genzenren/161222.pdf(PDFファイルへのリンク)

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もしもあなたが、福島全土が放射能汚染から解き放たれた安全な地域になった、と考えるとしても、原発事故から避難している人たちはそう思えずにいる、それが事実であり、それは先に述べたように無理からぬことです。

この人たちが心無い人たちによっていじめの被害に合っているとき、この人たちに寄り添うのではなく、間接的にでもこの人たちの心配や恐れを揶揄し、非難し、馬鹿にするような態度をとることができるのだとすれば、それはいじめ加害者と変わらない、原発事故避難者への無理解、あるいは無慈悲、冷酷な態度だと私は思います。

私は、新潟での原発避難いじめの記事を読んだ時、下のようなブコメをしました。きっと原発事故避難者にやさしく寄り添っている方もいると思いますが、現実は福島から避難してきたことすら隠さなければならないのが日本社会の現実です。このままでは、原発事故は国土を汚しただけではなく、日本国民の心まで分断し汚してしまったのではないか、とすら思えます。

原発避難の小4に担任が「菌」発言 いじめ相談の5日後:朝日新聞デジタル

子供は親や教師の鏡。震災と原発事故で被害を受けやむなく避難している事を周りの親も教師も認識していながらこのようないじめを生じさせ放置し加担する。これは横浜や新潟だけの問題か?被害、避難なんて他人事か?

2016/12/02 13:31
b.hatena.ne.jp

今の日本で原発や放射能汚染、被曝に関する話題に関わるのは大変な労力がかかることもあり、それを避けて暮らしたい人もいるでしょう。しかし、現実にこれだけ多数の原発避難いじめが生じていることが明らかになっている以上、それを無くし、被害者が被害者として正当な扱いを受けられ、人間の尊厳が守られる社会になるよう声を上げるしかありません。


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