45 For Trash

しごうするのか、されるのか。

BPOはSMAP生放送謝罪のスマスマを審議して国民の支持を得るべきだ。

1月18日にフジテレビ番組「SMAP×SMAP」内でスマップメンバーが生放送謝罪を行ったことについて、BPOには多数の意見が寄せられたという。報道によると1月中に視聴者から寄せられた意見は約2800件。これに対し、BPOは審議入りしない意向のようだ。

私はBPOウオッチャーでもジャニーズウオッチャーでもSMAPウオッチャーでもないのだが、大切な問題を孕んでいる気がするので、今日はこの件について書いてみる。

最初に結論を書いておくと、BPOが審議しない理由はよくわかるが、それでもなお敢えて審議すべきだというのが私の考えである。以下その理由を述べる。

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Photo credit: Milestoned via Visualhunt.com / CC BY

BPOは審議入りしない意向

約2800件の意見というのは異例の多さである。国民的アイドルに関する話題であること、また解散報道が過熱している中で本人たち自身からの謝罪ということで、視聴率も非常に高く大きな話題になったから、という面は当然あるが、一定の割合であの光景に「不快感」を抱いた人が多かったことの反映でもある。

これに対し、BPO川端委員長は、「放送された内容それ自体が放送倫理違反というわけではない」と審議入りしない考えを示しているようである。

www.asahi.com

私はこの問題に関してBPOが審議を行うとは予想していなかった。また、審議入りしないことが全く理解できないわけではない。

スマップ生放送謝罪についてBPOに寄せられた意見

BPOに寄せられた意見を私は直接見ることができないので正確にはわからないが、BPOの公表内容からすると下記のようなものである。

一般視聴者からの意見なので、実際にはそのニュアンスや表現方法には多種多様なものがあると思われる。スマップファンがファンの立場から寄せている意見も多数あるだろう。また、BPOの役割に対して理解している意見ばかりではないかも知れない。ただ、BPOはこれらの意見を集約した上でこのように発表しているのであろうから、このまとめに則って意見を整理してすると次のようになる(多少意訳が入る)。

1. ジャニーズ事務所経営側から意に反して強制されたパワハラまがいの謝罪を放映することは放送倫理に反するのではないか。
2. 情報番組においてツイッター上の意見の取り上げ方が恣意的あるいは自演行為の疑いもあり、事実を捻じ曲げて印象操作しているのではないか。
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BPOが審議入りしない理由(推測を含む)

BPOがこの件について審議入りしない理由は下記のようなものだ。

川端委員長は「我々が扱う案件かどうかという観点でいうと、本人たちから被害を受けたという訴えがあれば別だが、放送された内容それ自体が放送倫理違反というわけではない」と審議入りしない考えを示した。

SMAP謝罪、BPOに意見2800件 審議しない方針:朝日新聞デジタル

これについては、BPOを構成する3つの委員会(放送倫理検証委員会・放送人権委員会・青少年委員会)ごとに見ていくことにしよう。

放送人権委員会の審議対象ではない

「本人たちから被害を受けたという訴えがあれば別だが」という部分は、BPOの放送人権委員会の審議対象となるかどうかに言及したものと思われる。

放送人権委員会は、放送により人権侵害を受けた当事者を救済することを目的としているため、当事者の申立てがあることが審議入りの前提条件となっている。そのため、本件に関しては、スマップメンバー自身から人権侵害の申立がない限り審議対象とならない。

放送倫理検証委員会
意に反した謝罪・パワハラであるという点について

次の「放送された内容それ自体が放送倫理違反というわけではない」という部分。これは放送倫理検証委員会の審議対象でないことに触れたものと思われる。

放送内容それ自体はスマップメンバーが自らの言葉で謝罪内容を話しただけであり、それ自体に放送倫理違反が含まれていると判断する要素はない、ということだろう。

また、ここからは推測に過ぎないが、スマップが生放送で語った内容や、この謝罪を行った経緯等に照らしてみれば、あの放送自体がパワハラ的行為の一環としてなされた可能性をもちろん否定はできないだろうが、それは番組それ自体からはうかがい知ることはできない。当番組以外のメディアによる報道内容や多数の背景事実について、真偽を検証しなければ、あの放送がパワハラの一環だという認定はできない。しかし、そのようなことはBPOの守備範囲ではないし、その能力もない。そういうことではないかと思われる。

この点に関しても、概ね同意できる。

情報番組が事実を捻じ曲げて印象操作をしているという点について

報道されている委員長の発言では、この件は念頭に置かれていないように思われる。

この件については、後日BPOの正式な議事概要発表等から知るしかないが、いわゆるヤラセ問題そのものに該当する恐れもあることから、審議対象としないことは容易ではないのではないかと私は考えている。

青少年委員会

青少年委員会との関係での言及はない。

「青少年が視聴するには問題がある、あるいは、青少年の出演者の扱いが不適切だなどと視聴者意見などで指摘された番組」について審議する委員会であるが、「放送倫理」という点からみると、この委員会の守備範囲は放送倫理検証委員会との関係で微妙なところもあるが、特に青少年視聴者への影響という点に重点を置いて、成人に対してとは異なるレベルの倫理性を議論する場であるという理解で良いかと思う。

BPOに意見を寄せた年齢層の中に、どれくらい「青少年」が含まれていたかはわからないが、皆無というわけではなかろう。SMAPはもはや「大人」のアイドルグループであるが、ファン層は幅広く、いまだに十代のファンもそれなりにいるかも知れない。また、何よりも他のアイドルグループを多数輩出しているジャニーズ事務所での問題であることもあり、十代の人たちが強い関心を持っていたこともうかがわれる。このような十代の子供を持つ保護者からの意見も多くあったのだろう。

「青少年」にそれなりの「不快感」「負の感情」を感じさせた、あるいは、青少年の保護者が「見せしめ」的な放送を子供に見させるべきでないと感じたことについて、この委員会が関心を持つべきかどうかを判断することは難しい。

ただ、今回の件は、教育的観点や、暴力表現や性表現等、一般に青少年特有の問題とされる類のものではなく、結局のところ、視聴者を成人・青少年と区別せずに論ずる「放送倫理」一般の問題に帰着すると思われる。言及がなかったのもこのためかも知れない。

国民の身近な存在になるために審議すべきだ

まず、情報番組(めざましテレビ)における事実歪曲による印象操作の点は放送倫理検証委員会の審議対象たりうるものではないかと私は思う。これについては今後の議事概要発表を待ちたいと思う。

一方で、スマスマでの生放送謝罪放送が放送倫理検証委員会の審議に付されるべきかどうかについては、BPO側の対応にうなずける面はある。「公開パワハラ放送」であったかどうかを検証するためには、放送内で触れられていない芸能事務所内のやり取り等の事実認定が必要となってしまう。BPOの性質上、このようなことが行いうるとは思えない。

また、放送業界の自主的組織とはいえ、BPO審議自体が番組制作に萎縮的効果を及ぼす可能性に鑑みれば、一定の謙抑性が求められるのも当然で、放送倫理に反するという一定以上の疑いがある場合にのみ審議対象とすることが好ましいとも思う。

それでもなお、私はこの件は審議すべきだと思う。

BPOへの多数の意見は、あの生放送謝罪から「国民的アイドルグループも業界に支配力を持つ事務所には屈服せざるを得ない」ということを電波にのせて放送したと感じた視聴者が少なからずいた、ということを示している。BPOの発表にも寄せられた意見に「パワハラ」「強制」という言葉が多数使われていたことがうかがわれる。単に「スマップが大好きだからかわいそう~」という意見ばかりではないのである(そういう意見の中にはむしろスマスマ存続のためにBPOに訴えないで欲しいという動きもあるそうだ)。つまり、社会的権力が個人の尊厳を踏みにじる場面を、番組として行うことに対する抗議である。

この点に関しては、以前2つの記事を書いた。

www.shigo45.com

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思えば、スマスマの番組内で生放送として謝罪を行うことは異常とも言える。別途記者会見を行い、それを各メディア・情報番組が取り上げるのが通常であるのに、あえて番組内で行っている。ということは、スマップの謝罪内容自体、番組編集の内容の一部となっているということである。単にスマップの口から出た言葉、で済まされる問題ではない。番組制作をしたテレビ局の問題である。

また、上で述べた事実歪曲の疑いがある情報番組も、スマスマと同じフジテレビによって制作されている。これらを合わせ考えれば、問題は支配的な力を持つ事務所の意向によって、特定局の番組で扱われる事実が歪曲されているのではないか、という疑いにも繋がる。そう考えれば、この問題は単なる「芸能ネタ」ではない。

さらに、1月中だけで約2,800件もの意見が寄せられたという事実がある。もちろん、意見の数だけで事の性質や重大性を判断することは危険だ。組織的動員でBPOを通じた特定番組に圧力をかけることが容易になってしまうからである。しかし、今回はその意見の数だけでなく、周囲の状況からも多くの国民が関心を寄せた問題であることは明らかだ。

だからこそ、私はBPOに審議をしてもらいたいのだ。それによって国民の中におけるBPOのプレゼンスを高めて欲しいのである。

確かにBPO案件とするには上述した通り難しい部分は多々ある。しかし、BPOは厳密な訴訟要件を要求する裁判所のような組織ではないはずだ。中立公正な立場を取る必要はあるが、それは審議の内容で徹底すればいい。むしろ審議入りの可否については、国民的関心度というバロメーターがあっても良いぐらいだと思う。

「正式な審議をした上で審議打ち切りとした」それでも良いではないか。国民がモヤモヤしているものに応えるという姿勢があるべきではないだろうか。一般視聴者に「寄り添う」姿勢によってBPOが国民にとって有益な組織であることをアピールし続ける必要があるのではないだろうか。

しかも現在の政権はBPOを快くは思っていない。民放連とNHKによって自主的に組織されるBPOという存在を、官製の組織に置き換えようとする目論見すらある。また、放送については多数の行政指導が行われ、その自律性については、政権から不断の切り崩しや恫喝によって危機に瀕している(この件については先日記事を書いた)。

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そんな中でBPOは、放送の自律性を守るための非常に重要な役割を担っている。自分たち自身が放送倫理を維持・向上させているという実績を積み重ねて行かなければならない。BPO自身、「NHK総合テレビ『クローズアップ現代』“出家詐欺”報道に関する意見」の中で次のように言っている。

政府がこれらの放送法の規定に依拠して個別番組の内容に介入することは許されない。とりわけ、放送事業者自らが、放送内容の誤りを発見して、自主的にその原因を調査し、再発防止策を検討して、問題を是正しようとしているにもかかわらず、その自律的な行動の過程に行政指導という手段により政府が介入することは、放送法が保障する「自律」を侵害する行為そのものとも言えよう。
もっとも、放送が他からの命令や指導によってでなく自由と自律の下で番組の質を維持し向上させるには、不断の自己検証と努力に加えて、放送局の独善に陥らないための仕組みが必要であろう。そのためにこそ、BPO(放送倫理・番組向上機構)がある。

第23号 | BPO | 放送倫理・番組向上機構 |

そして何よりも重要なことは、BPOという組織とその活動について、国民からの強い支持を獲得し続けなければならないということだ。多くの国民が、BPOによって自律的に放送の質や倫理性が高められているのだと納得し支持しなければ、その役割は他の何かにとって代わられるだろう。そうなれば表現の自由は死ぬ。

BPOには理性的な意見も、感情的な意見も、自分勝手な意見も、視聴者からの意見であれば積極的に取り上げ審議する姿勢を持ってほしい。間口を出来るだけ広げることで国民の関心に応え、その上で審議を中立・公正に行ってほしい。そのためにはBPOの組織について、もっと予算や人員を充てて欲しい。

何度も述べるように、スマップの謝罪生放送が審議対象になりにくい点、審議しても検証余地が少ない点などは理解している。それでもなお、この問題を取り上げることで、国民の注目を浴びて欲しかったのである。問題を整理し、検証の限界を述べて「審議打ち切り」でもいい。とにかくやって欲しいのだ。百歩譲っても、情報番組における事実歪曲による印象操作の点だけでも扱ってほしい。その真偽や、その背景などを明らかにすれば、国民から大きな支持が得られるだろう。

そしてここで正直に言おう。私はNHK・民放を問わずこの国の主要テレビ局に完全に幻滅している。時々テレビなどない世界になって欲しいと夢想することさえある。

そんな私が言うのだから夢物語のような話である。それでもなお、私はBPOに各放送局と国民の橋渡しをする使命を期待すると敢えて言いいたい。表現の自由は言うまでもなく国民が享受すべき人権である。国民とBPO、ひいては国民と放送局が連帯してこそ、表現の自由を守ることが出来るのだと思う。


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*1:生放送謝罪翌日のフジテレビ「めざましテレビ」内で放送されたツイート紹介内容について自演の疑いがあるとされた件。参照: http://matome.naver.jp/odai/2145316139454765801 http://togetter.com/li/927561など

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