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45 For Trash

しごうするのか、されるのか。

ゴミばさみとバイオレンスの目覚め。

駄話

小学校5年生の俺は痩せっぽちだった。周りの子が成長期のはしりなのか大きくなっていく一方で、俺にはまだその兆候もなく身長順に並ぶ列でも徐々に前に追いやられていった。

5年生のクラスには今まで仲の良かった子がおらず、しばらく少しつまらない想いをしていたが、そのうち新しい気の合う友達ができた。Tくんである。

Tくんは勉強も女の子からの人気もいまいちだったが、野球と冗談のセンスがあった。徐々に俺たちはいつもつるんで野球に参加し、冗談を言い合っていた。興味のなかったアイドルに目が行くようになったのもTくんの影響だった。

f:id:shigo45:20151220112412j:plain Photo credit: Incase. via Visual Hunt / CC BY

 
同じクラスにはTくんの幼馴染のFくんがいた。Fくんはとても活発で目立つ存在だった。声がハスキーで、派手な色のスタジャンとゴルフ用のようにも見えるズボンをいつも着ていた。天然パーマの長めの髪とともに既に目立ち始めていた髭が、全体的に「濃い」印象を与えた。

Fくんはいつも楽しそうに冗談を飛ばしていたが、その冗談にはいつも誰かを馬鹿にするトゲが含まれていた。俺の目から見るとFくんはやかましくて意地悪なやつだった。

TくんとFくんは家が近所で幼稚園からの付き合いだった。FくんはTくんに心を許しているようだったし、TくんもFくんの意地悪な言動に気をとめることはないようだった。FくんはTくんにも時々意地悪をしたが、暗黙の限度を超えることはないらしく、Tくんは平気な顔をしていた。  
 
 
俺がTくんと仲良くなり始めた頃から、Fくんは意地悪の矛先を俺に向けるようになった。些細なことでからかい、笑いものにしようとした。当事者の俺はFくんの明確な悪意を感じていたが、周囲はいつものFくんの行動としてその悪意には気づいていないようだった。Fくんが先頭切って大笑いをし、まわりもそれにつられているので、悪意が目立たなくなっているのも確かだった。俺はその都度Fくんに反駁し、それでFくんの意地悪は一旦収まったが、数時間後にはまた始まった。

当時の俺は活発だったが暴力的なところはなかった。家には穏やかな両親とおとなしい姉だけで、暴力的な喧嘩を家の中で経験することはなかった。幼馴染たちとの小競り合いはもちろんあったが、殴り合いの大喧嘩になるような機会はなかった。

いわゆるガキ大将のような奴が学年に2人いて、その2人は暴力では圧倒的な実力を持っていたが、俺には手出ししなかった。彼らと一番口喧嘩をしたのは俺だったが、彼らは俺に暴力を振るうことは一度もなかった。むしろ彼らはいつも俺と仲良くしようとした。他のやつとの暴力的なトラブルが起きなかったのは、この2人と仲良かったおかげかも知れないと今では思う。

暴力と言えば、幼馴染が怒ると泣きながらでっかい石を投げまくってくるとか、言うことを聞かない友達の弟が殴ってでもおもちゃを分捕ろうとするのを押し返さなきゃいけないとか、そいういう類の些細なことしかなかった。  
 
 
 
 
ある日の学校での掃除の時間、俺とTくんは校庭の担当にまわった。校庭には先生の目があまり届かず、自由におしゃべりしたりふざけたりしていられるからだ。Tくんは竹ぼうき、俺はゴミばさみの係だ。近くには誰もおらず、隠し持ってきたボールでキャッチボールをしたり、冗談を言い合って穏やかな時間を過ごしていた。

校庭の石垣の陰からFくんが顔を出した。そのいたずらっぽい顔を見た瞬間、俺は憂鬱になった。これで楽しい時間は台無しだ。でも最近ではいつものことだった。

Fくんは手に持った竹ぼうきでTくんにチャンバラを仕掛けた。Tくんは喜んで応戦し、二人で笑い合っている。二人は仲がいいから仕方がない。手持ち無沙汰になった俺は、仕方なくゴミばさみでその辺に落ちた枯れ葉を拾い始めた。

それを見たTくんは気を遣ったのだろう。俺にもチャンバラを仕掛けてきた。Fくんがいるので気乗りしなかったが、俺はTくんに応戦した。また少し楽しくなってきた。

当然、Fくんもこちらにくる。3人でのチャンバラになった。

そもそも、ゴミばさみと竹ぼうきでは長さが違い過ぎて勝負にならないのだが、そこは「お約束」のもとで行われる遊びだ。と思っていたらFくんの攻撃が俺に結構ヒットしてきた。竹ぼうきの尖った先が俺の手を引っ掻いたり、柄が足にジャストミートし始める。ムッとしつつもあくまで「遊び」として応戦する。するとなぜかTくんも俺を攻撃し始めた。

Tくんはニヤニヤしていた。Fくんもニヤニヤしていた。TくんとFくんは時々目を合わせてまたニヤニヤした。

少しずつ洒落にならないぐらい彼らの攻撃が当たり始めた。二人は竹ぼうきを分解して長い柄だけを使っての攻撃に切り替えてきた。それが、手に当たり、足に当たり、顔に当たった。Tくんからの攻撃を防ぐと、その隙にFくんが攻撃してくる。その逆も当然ある。特にFくんの攻撃は強烈だった。後でみたら身体中に結構なアザが出来ていたほどだった。

だが、その痛みはほとんど感じていなかった。痛かったのはTくんのニヤニヤだった。今まで見たことのない顔だった。

 
 
 
 
気付くと、ゴミばさみを投げ捨て、二人の竹ぼうきの攻撃をまともに受けながらも飛び込んでいた。

Tくんの顔を一発殴ったら、Tくんは地面に崩れ落ちて大声で泣きだした。その間も俺を思い切り殴り続けていたFくんの竹ぼうきの柄を俺は奪い取って捨てた。自分でも意外なほど堂々とFくんの前に仁王立ちになった。Fくんは、キョロキョロと他の武器を探していたが遠かった。Fくんは教室の方向に走り始めた。

Fくんを追いかけた俺は、石の階段の駆け上がるFくんのゴルフズボンの腰に手をかけて思い切り引っぱった。Fくんはもんどりうって仰向けに倒れると同時に大声で泣きだした。それでも俺は攻撃をやめなかった。Fくんの天然パーマをわしづかみにして後頭部を石の階段の角に打ち付けた。Fくんはもう抵抗していなかった。

騒ぎに気付いて集まってきた10人ぐらいの女子が大声で「○○くん!やめて!やめて!」と叫ぶのが聞こえた。大泣きしている女子も何人かいるのがわかった。俺はFくんの天然パーマから手を放し、立ち上がって泣いている女子の方を見た。怯えた顔が俺を責めていた。俺は黙ってその場を立ち去った。  
 
 
 
 
もちろん、その後先生にひどく叱られ、TくんとFくんに謝らされたと思うが、ほとんど覚えていない。

その日を境にFくんが俺にちょっかいをかけてくることは無くなった。Fくんは前より少しおとなしくなった。Tくんは俺と距離を置くようになった。いや、俺の方がTくんを避け始めたのかも知れない。TくんとFくんの距離も離れたように思えた。

俺はその日以降、少し暴力的になっていった。手が付けられないやんちゃで有名だったKとも喧嘩をして、Kの頭で鉄線入りのガラスを割ってしまったこともあった。母親が学校に呼び出され、ガラスは弁償させられ、Kの家に謝りに行かされた。だが、意外なことに両親は大して叱りもせず笑っていた。Kとはそれから少し仲良くなった。

その後、中学・高校と俺の前に多少バイオレンスな世界が拡がっていったのは、この時のことがあったからなのかも知れない。  
 
 
 
 
あの時、Fくんだけが攻撃をしてきたとしたら、あんな風にはならなかっただろう。Tくんはなぜニヤニヤしていたのだろうか。大した意味はなかったのかも知れない。今の俺には、Fくんの意地悪も可愛く思える。今ならFくんとも仲良く出来ただろう。TくんとFくんと俺の3人で楽しくやれたかも知れない。

庭に残された猫のフンをゴミばさみで片づけながら、そんなことを考えた週末である。


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